高知新聞 2015年5月22日 金曜フリースペース 甲子園に”食の英雄”

「ヒーロー揚げ」人気上昇
山崎さん(中土佐町出身)仕掛け人 西宮市

「鍋焼き」手本に発掘

【大阪支社】プロ野球阪神タイガースの本拠地で、高校野球の”聖地”でもある甲子園球場。野球ファンが集う球場のそばに「甲子園ヒーロー揚げ」と描かれたのぼり旗がはためいている。ちょっと変わった名前のこの食べ物はニンニクじょうゆのたれが香ばしい手羽中の空揚げで、甲子園界隈のご当地グルメとして人気上昇中だ。仕掛け人は高岡郡中土佐町出身の山崎哲さん(47)=兵庫県西宮市。いつからか西宮にあった一品を発掘し、須崎の鍋焼きラーメンを手本として空揚げ界のヒーローに育て上げた。 (佐藤邦昭)

□すごいインパクト
 山崎さんは地元の須崎高校を卒業後、自衛隊へ。隊内の食堂勤務で「筋がいい」と言われ調理師免許を取得した。自衛隊を退職後は料理店で働き、1994年、西宮市内に焼き鳥店を開業、2000年には甲子園球場近くにも店を出した。
 西宮市は、兵庫県内で神戸市に次いで観光客が多い。とはいえ、「観光客といっても背反は甲子園球場のお客さん。野球以外にも名物をつくって、地域を盛り上げたかった」と山崎さんは振り返る。
 もともと「日本を6周くらいはした」ほどの旅行好き。ご当地グルメが旅の大きな楽しみで、それを使った地域おこしにも興味を持っていた。
 そんなころ、甲子園球場近くの居酒屋に入り、メニューに目がくぎ付けになった。
 ヒーロー450円。
 「すごいインパクトでしょ? 何これ、って」
 鉄板焼き店に行くと、「チキンヒーロー」があった。
 界隈の店を調べると、「ヒーロー」を出す店がぽつぽつとある。
 山崎さんは尋ねた。
 ヒーローって何なのか。誰が名付けたのか―。
 分かったのは、どの店も鶏の手羽中を揚げてニンニクじょうゆのたれを掛けた食べ物ということだけ。発祥もわからない。
 「昔、焼き鳥店のおっさんに教えても炉歌と聞いている…」「いつ教えてもらったか覚えてないなぁ」
 語源も諸説粉々だった。中国語の鶏「ジー」と肉「ロー」から来たとか、テレビ特番のヒーローのように子どもに人気の一品にとの思いから付けられたとか…。
 謎は謎のまま。それでも売り出そうと決めた。
 「揚げ物のある店なら簡単にできるし、価格も手ごろ。何より甲子園にふさわしいネーミング。これだ!と思ったんです」

□店ごとに工夫
 山崎さんは「甲子園ヒーロー揚げ」と名付け、自身の店の一押しメニューに入れた。飲食店の経営者仲間にも「ヒーロー揚げをご当地グルメにして地域おこしをしよう」と呼び掛けて回った。賛同した仲間で「西宮・甲子園ヒーロー揚げ推進委員会」も組織した。
 ヒーロー揚げは、片手で食べられるよう手羽中を二つ割り▽サクサクの衣▽ニンニクたれ―の「ヒーロー揚げ三箇条」を守れば、味や盛りつけは自由だ。
 大根おろしを載せるスタイルもあれば、カレー味で提供するインド料理店もある。
 山崎さんの営む焼き鳥店「じゅげむ甲子園球場前店」では、からっと揚げた手羽中に甘酸っぱいニンニクじょうゆを掛けて仕上げる。かむごとに口の中に食欲を刺激するニンニクの香りが広がる。
 地域のイベントなどを通じては知名度は上がり、とうとう兵庫県が地域の逸品を認定するブランド「五つ星ひょうご」にも選ばれた。

□いつかは帯屋町
 消えそうになっている料理を発掘し、自ら話題を作って仕掛けていく―。そのお手本としたのは、山崎さんの地元・須崎市の鍋焼きラーメンだった。
 「知る人ぞ知る名物を掘り起こし、地域一丸で売り込んで全国に知れ渡った。ご当地グルメの発掘方法から地域おこしの手法まですべて勉強させてもらってます」
 「最終目標は、地域の人が当たり前のように食べて、広めてくれること。鍋焼きラーメンも、実家の母は最初『鍋焼きらあ知らん』だったのが『おまんも知っちゅうかよ』になり、今では『こないだはここに食べに行ったぞね』って、パンフレット片手に教えてくれる」
 ヒーロー揚げは次第に知られてきた。それでも連携しているのは、まだ12店。山崎さんは「甲子園周辺の店ならどこでも食べられ、愛される一品にしたい」と意気込む。
 山崎さんは毎年8月、高岡郡梼原町で開かれる「高原祭り」にも出店している。
 「いつかは高知の真ん中、帯尾町でヒーロー揚げをお披露目したい。高知県の内外でがんばる大勢の『高知のヒーロー』に出店してもらうようなイベントができたら」

揚げたてにニンニクじょうゆのたれが香る
「ひーろーあげー」。子どもにも人気
甲子園ヒーロー揚げを揚げる山崎哲さん。(写真はいずれも西宮市甲子園七番町の「じゅげむ甲子園球場前店」)