毎日新聞 2015年7月6日 三野編集委員の 兵庫の五つ星を訪ねて

由来不明の”ご当地グルメ”

 「甲子園ヒーロー揚げ」なる食べ物が、西宮市内にあることを初めて知った。実は、写真でご覧の通り、鶏のから揚げだ。「なーんだ」と思うことなかれ。地域まちおこしの夢も込められている逸品だ。阪神甲子園球場のすぐ近くに店を持つ仕掛け人、鶏料理店「じゅげむ」代表の山崎哲さん(47)に話を聞いた。
 そもそもなぜヒーローという名なの? 土地から甲子園というのは分かるけれど……。
 「それが僕にもまだはっきりと解明できていないんです。いろんな説が飛び交って」と山崎さん。約20年前にあった偶然の出来事を話してくれた。
 西宮市内にある居酒屋に入ったら、メニューに「ヒーロー450円」とあった。「何や?」。全国をバイクで旅していろいろな料理を楽しんでいる山崎さん。分からないまま注文したら、出てきたのが、手羽中を二つに割った鶏の唐揚げだった。にんにく醤油を入れたお皿が付いて「これを付けて食べて」。さっそく口に入れてみると、サクサクの衣とにんにくタレがマッチして、すごくおいしい。同じ料理を「チキンヒーロー」という名で出している他店も見つかった。ただ、名前の由来は、2店とも「焼き鳥屋のおっちゃんに教えてもらった」と言うだけで、よく分からない。
 それでもいろいろな由来が考えられるという。テレビのヒーローもののアニメや実写版にあやかってヒーローと付けられたという説。大阪の鶏肉業者が甲斐バンドの歌「HERO(ヒーローになる時、それは今)」から付けたという説。さらには、中国語から変化したという説もある。特に台湾では手羽先はよく食べられているという。
 海外特派員の経験を持つS記者に聞いてみた。「確かに中国語で鶏肉は『ヂーロー』と発音します。そういえば、北海道でも鶏のから揚げは『ザンギ』と言い、これも中国語の「炸(ザー)」(=中国語で「揚げる」)「鶏(ヂー)」がなまったものだと言われています」との返事。う~ん、ヒーローも同じような経緯をたどったのか。
 山崎さんは、すぐにこの不思議な食べ物を「甲子園ヒーロー揚げ」としてメニューに加えた。そして「もともとこの地域でよく食べられていた食べ物だったのではないか。これをご当地グルメにしよう」と思い立ったという。人気メニューに育てば、他店もどんどんまねをして、ご当地グルメに育っていくはずだ、と。
 それ以来、山崎さんはグルメイベントに出かけたり、自ら仕掛けたりするなどして活発に動く。時間はかかったが次第に賛同する人が増えていき、今では12店がメニューに加えるようになった。「手羽中を二つ割にした骨むき出しスタイル」「サクサクの衣」「香るにんにくタレ」の3カ条を守りながら、独自のヒーロー揚げを売り出している。
 「将来は、ここ甲子園の地で、から揚げ甲子園というグルメイベントができたら」。それが山崎さんの夢だ。

 山崎さんのこれまでの人生は、波乱万丈だ。高卒で自衛隊に入隊した後、「一旗揚げたい」と料理の世界に飛び込んだ。26歳の頃、阪神西宮駅近くに飲食店をオープンしたが、その1カ月半後に阪神大震災が発生。避難所でボランティアに明け暮れた。やっと店を再開したものの復興が進むにつれて客が減り、妻と死別するなどの不幸にも見舞われた。
 それでも取材中、常に前を向く明るさが印象的だった。苦しい時、お世話になったり助けてくれた多くの人たちへの感謝の気持ちが、この人の原動力なのかもしれない。 【編集委員・三野雅弘】

甲子園ヒーロー揚げ
 西宮市・甲子園かいわいの飲食店で食べることができる鶏の手羽中のから揚げ。写真は「じゅげむ」甲子園球場前店が提供するヒーロー揚げ。現在は12店がさまざまなメニューを競いあい、ご当地グルメに育った。詳しくは「西宮・甲子園ヒーロー揚げ推進委員会」のホームページ(http://www.koshien-heroage.com)で。

五つ星ひょうご
 県と県物産協会は、兵庫五国の豊かな自然と歴史・文化を生かした”地域らしさ”と、”創意工夫”を兼ね備えた逸品を「五つ星ひょうご」として選定し、全国にPRしています。今回の「甲子園ヒーロー揚げ」は2012年度の選定商品です。

近くのスーパーで臨時出店すると、多くの人が買ってくれる=西宮市内で5月31日
イメージキャラクター「チキン大佐」にふんして働く山崎さん=西宮市甲子園七番町で